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・・・ついにこの日がやってきてしまったか。


私は、宿の部屋に何気なく置かれている卓上カレンダーへと目を向けて、はぁ・・・と沈鬱な溜息を吐いた。

まだ時間があると思っていたのも束の間、その日がやってくるのは案外はやかった。
心の準備が出来てない訳ではない。
それでも、いずれやってくるであろう瞬間を先延ばしにしたい気持ちは変わらなかった。


―私は、リロイが求めている私ではないかもしれない。


漠然とした不安感が、私の心に暗雲をもたらした。
どうしたらいいのだろう。
このままリロイに流されてしまえばいいのか、それとも私なりに決着をつけるべきなのか・・・。

こんな私を知ったら、リロイは馬鹿笑いするだろう。
そんな事で悩んでいるのか、と嘲るかもしれない。
体を預ける事を怖れているなんて、今時の町娘たちでさえしないだろう、と。


そんな私を他所にして、リロイがドアから顔を出す。
ニンマリと何かを企んでいるような表情を隠そうともしないで、相棒はこいこいと私を手招いた。

「なんだ、何か用事か?」

用事があるとしたら一つしかないことを知りつつ何食わぬ顔で問う私の腕をリロイは強引に引っ張った。
そうして私が逃げられなくなった事に安心したのか、リロイは小さく息をついて言う。

「いいから。これ引けよ」

「何・・・くじ引きか・・・?」

リロイは右手に茶封筒を3つ手にしていた。
その味気なさにセンスの欠片も無かったが、ともかく私は1つを選ぶ。
引き抜かれたそれをリロイの左手がさっと奪い去ったのを見て、ようやく私は事の次第を理解した。

「封筒の中に、この間のお返しが書いてある」

「・・・・お返し?」

「バレンタインのだよ」

「あぁ・・・」

やはり、そういうことか。
リロイはリロイなりに面白い事を考えたというわけだ。
もっとも、その茶封筒の中身が私の喜ぶものだという保証はないが。

それでも嬉しいことに変わりはない。
リロイが私の為に用意してくれたこのささやかな催しを、私は本当に嬉しいと思っていた。


「じゃじゃーん。さて、中身はなんだったかなー?」


珍しく童心に戻ったような素振りで封筒を破るリロイは、私よりも楽しそうだった。

中から現れたのは、やはりセンスを感じさせない質素な紙切れ。
そこに、マジックで粗雑な文字がのたうっている。

「なんだ・・・?」

「お、大当たりだな」

「いいから何と書いてあるのか教えろ」

嫌らしくニヤつくリロイの様子に、私は一瞬悪寒を感じる。
どうせ、ロクでもない事になるのだろう―私は無意識のうちに覚悟を決めた。

「今年のホワイトデーのプレゼントは・・・」

リロイは勿体つけた口振りで言う。

「“俺”でした!よかったな」

「ぶっ!」

私は予想通りすぎる展開に、思わず吹き出した。

急に感じる頭痛にこめかみをおさえた私に向かって、リロイは紙切れの表を見せ付けた。
確かに、そこには大きな字で“俺”と書いてあるような気がする・・・。

「因みに、他の二つはだな・・・」

そういってリロイは残りの封筒を破り捨てた。
そして中からら同様な紙切れを取り出して私に見せる。

「新しい鞘、それから・・・ティーセットと紅茶半年分だったんだけどな」

「そうか。私はつくづく運がいいようだ」

「・・・だな」

苦笑う私に対して、リロイは困ったように頬をかいた。
リロイにしても、冗談半分だったのだろう。
呆れている私に困惑の視線を落として、リロイはぼそぼそと呟いた。

「まさかコレを引くとは思わなかったんだが・・・お前、俺を欲しいか?」

「なに?」

「いや、だから・・・」

言葉を濁すリロイ。
私は予想外の質問に驚愕していたが、すぐに我を取り戻す。

「何を言ってる。引いてしまったんだから・・・仕方ないだろう。くれるというなら受け取るが?」

それに、お前が私を欲しいと思ってるんじゃないか。

口には出さなかったが、私は胸中で不敵な笑みを零した。
強気に出るうちに、私の不安は薄れていく。
なんだかんだ言ったって、私はリロイが欲しいのだ。
そのことに、ふと私は気付いてしまった。

「でも・・・っ」

「なんだリロイ、怖いのか?」

「んなわけあるかよ。お前が・・・」

「私が、なんだ?いってみろ」

すっかり私はペースを取り戻していた。
そこらの女相手なら完全に主導権を握れるリロイが私に対しては遠慮を見せる。
そのことに、私は特別なのだという優越感が生まれていた。

「・・・もういい」

リロイはふてくされたように頬を膨らませてそっぽを向いた。
はっきり言って全然可愛くないが、私は思わず頬を緩める。

「じゃあ、ご要望通りにするからな」

仕方ない、という風を装いながらもリロイの声は弾んでいた。
再びこちらに向き直ったリロイが私を真っ直ぐに見据えていて、漆黒の双眸に私は目と心を奪われる。

ごくり、と生唾を飲む音が響いた。

私の強張る体をリロイがそっと抱き寄せて、優しい口付けが降りて来る。
額に、頬に、唇に―リロイの温かな吐息が降り注ぎ、私は安堵に瞼を閉ざした。

口付けはやがて深くなり、私の口腔を蹂躙する。
濡れた音を立てる口元に私の全神経が集中する一方で、リロイの掌がぎこちなく私のローブを剥ぎ取ろうと動いていた。
それに気付いて、私はローブを消失させる。
分子の結合を解かれて霧散したそれにリロイは目を丸くした。
が、すぐに笑って耳元に囁く。

「手間がはぶけて便利だな」

「なら、もっと省いてやろう」

そう言って私が一糸纏わぬ姿になるのと、縺れるようにベッドへ倒れこむのは同時だった。
リロイもまた、慣れた手つきで衣服を脱ぎ去り、無防備に裸体を晒している私を強く強く抱きしめる。

「冷たいな・・・」

頭の上からくぐもった声が聞こえ、私は意識せずして身を震わせた。

やはり、お前もそう言うのか。
私の心に苦く広がったのは、息苦しいほどの落胆。
だが、無言になる私の胸に手を滑らせてリロイは言った。

「この温度―ずっと触れたかった。お前だけの温度に」

「リロ・・・」

リロイの言葉に、私のなかで何かがはじける。
私は縋るように腕を伸ばし、リロイの体を引き寄せた。

私も、お前の温度を感じたい。
この冷たい体を温めるリロイの熱をどれほど欲していたのだろうか―

私の求める仕草に、リロイが頬をほころばす。
それから私の体へとゆっくり口付けを落としていった。

「っあ、ん・・・」

私の五官は人のそれよりも鋭敏である。

胸の飾りをリロイは執拗に愛撫した。
周りをくるくると何度も赤い舌がなぞり、やがて中心にたどり着く。リロイはそこをキツく吸い上げ、舌先で転がすように弄んだ。
同時に、もう片方のそれを彼は指で潰すように揉みしだく。

ちりちりとした微弱な快感が、私の全身に広がっていった。

リロイは胸から次第に顔を下半身へと移して、広げた両足の間に顔を埋めた。
中心には決して触れずに、舌で内股を巧みに攻める。

「はっ・・・ん、リロっ・・・」

もどかしい快感に、私は嬌声をあげながら身を捩った。
早く触れて欲しい。
だが、そう懇願できるほど私は自分を捨てられなかった。
そのままリロイは私に触れることなく、さらに顔を下方へと動かす。

瞬間、リロイの柔らかな舌が後ろの口をそろりと舐めた。
そして入り口を押し広げるように、浅く挿入を繰り返し始める。

「リ、ロ・・・そんなとこっ・・・」

リロイは応えずに、唾液でぬるりとする舌を抜き、ローションを塗った指をゆっくりと入れていった。
指の付け根までくわえ込んだ自分のそこを想像して私は羞恥に泣きたくなる。
だが、そんな恥じらいを忘れさせるような快感が私の中を駆け巡った。

「ひぁっ」

「ココがいいんだな?」

意地悪く言って、リロイが中で指を折る。
思いがけない仕打ちに大きく叫んだ私は恥ずかしさにリロイにしがみついた。

指の本数は、2本、3本と増えていく。
リロイが周到に用意していた潤滑液のおかげか、痛みはあまり感じなかった。
おもむろにリロイが指を引き抜き、半ばまで立ち上がったリロイ自身を私にあてがう。

「・・・いいか?」

今更な事を訊くリロイに、私は頷く事で答えてやった。
指とは比べ物にならない体積が、私の中に入り込んでくる。
その圧迫感とかすかな痛みに、私は奥歯を食いしばった。

「・・・っ全部、入ったぞ・・・」

リロイは私に手を伸ばし、汗で張り付いた髪を払うと、ニッと子供染みた笑みを浮かべた。
そしてゆっくりと動き始める。

「あっ、あ・・・んっ・・・」

「っは・・・あ・・・っ」

体がこすれあう卑猥な音が嬌声と混ざり合って部屋に響く。
その音がますますリロイと私の欲情を煽り、リロイの動きが加速していく。
私の中で、リロイがさらに大きくなって張り詰めていた。
そして私自身もリロイの体と擦れあって、限界にまで達しようとしている。

「リロ・・・イっ、あ・・・ぁん・・・もぅ・・・」

「俺・・・もっ・・・」

言ってリロイが自身をギリギリまで引き抜く。
そうして一気に打ちつけた瞬間、リロイは私の中に白濁した欲望を吐き出した。

リロイが、私の胸に倒れこむ。
私は彼の額に浮いた汗を掌で拭い、つやのある漆黒の髪に指を差し入れた。

「リロイ・・・・」

呼ぶと、上目遣いにリロイがこちらに顔を向ける。

「あ、悪ぃ。重かったか」

呟きながらのそのそと起き上がって、リロイはずるりと自身を引き抜いた。

「あん・・・っ」

引き抜かれる感覚に再び快感を覚えてしまい、私はばつの悪さに顔を背けた。
その耳に飛び込むリロイの声。

「なぁ・・・お前、イった・・・のか?」

「ん?」

見ればリロイが不安そうな顔をしてこちらを見ている。
その不安の原因を、私はすぐに思いついた。

つまり、私が出すべきものを出してなかったから。

私は外観こそ人のコピーだが、内部は違う。
食物を食べても、それを一時的に溜めることが出来るだけで消化することが出来ない、という具合にだ。
だから、私には生殖器も当然ない。
快感を感じても、勃起したり射精したりすることは無いのだ。

そのことがリロイには不安だったのだろう。

「ああ。お前の心配は杞憂だぞ」

気持ちよくないのに、あられもなく喘いだりしない。
ふりが出来るほどの余裕も無い。

「本当か?」

「自信がないのか、お前は」

揶揄ってやると、リロイはまた不満気に頬を膨らませた。
何度も言うが、決して可愛くはない。

だがリロイはすぐに真顔になると、何かを思い出したように立ち上がった。
裸のままペタペタと床を歩いて隣の部屋に消えたリロイは、戻ってきた時やたら大きな袋を手にしている。

「じゃーん。コレなぁんだ」

「・・・なんだ?」

私はシーツを体に巻きつけて、リロイの傍へ近寄った。

「開けてみろって」

言われるとおりに袋を開けると、中から現れたのは新しい鞘とティーセット、それから山ほどの紅茶の缶。

「リロイ・・・」

唖然としている私の前で、リロイは得意げに鼻を鳴らした。

「リロイ・・・何ていうか・・・見直したぞ」

「おぅ。俺は、やる時はやる男だからな」

照れているのか、言うリロイの目は明後日を見つめている。
私は、不意打ちのつもりでその唇に唇を合わせた。




「これからも、よろしく頼むぞ、相棒」




















ホワイトデー記念に久々のリロラグでございます〜
しかも何気にエロですな。恥ずかしー///
タイトルの1/3は1月3日ではなく・・・三分の一です。リロイの用意した封筒にちなんで。
本当はラストにラグの下品なキメの一言を考えていたのですが、話の流れ的に合わなかったのでカットさせてもらいました(笑)
エロは苦手なので、これ以上は無理です。書けません・・・。
でも、やはり二人がラブラブしてるのはいいですねvv
二人にはホント、幸せになっていただきたいです。

by.涼木ソラ