『過去を詮索することには、何の意味もない』






それが嘘である事は自分が一番分かっていた



だが私は愚かにも、それを問うことを怖れていたのだ



彼の口から真実を聞くことを



なによりも怖れていたのだ






Liebes Pain






第一印象はお世辞にも良いとは言えなかっただろう。



私はリロイとは違って彼のことを何も知らない。

与えられた情報といえば彼が昔のリロイの相棒的存在で今はヴァルハラのエージェントをやっている、それだけだ。

リロイの現在の相棒であるだけあって、私は人を外見で判断してはいけないという事をよく肝に銘じていたはずだった。

けれど私は彼を見た瞬間、言い知れない居心地の悪さ―突き詰めていえば、敵対心を抱いていた。

分かっている。

人を、外見および第一印象で全て判断してはいけない、という事は。








『あいつの前で、殺し合いなんてしたくないだろ』




そうリロイに言った彼の瞳を覚えている。




どこか儚げで哀切を帯びた眼差しは、過去を憂う者の眼差しだった。

あの墓標に眠るものを悼んでの悲しみではないように思われた。

私が察するに、リロイを一瞥する彼の内に隠された感情は亡き者を通して見つめた遠い日々を想ってのもの。

そこに私が立ち入る隙など、もちろん僅かほどもなかった。

彼の意図を理解できるのはリロイただ一人であり、ジェイスと呼ばれた男の言葉にリロイは動揺を隠せなかった。







「―昔の…相棒、か」

「何言ってんだ?お前」




無意識のうちに零していたらしい呟きに、リロイが怪訝な顔をして剣の柄をコンコンと叩く。


「なんだ?私が何か言ったか?」


素知らぬ風を慌てて装ったけれども、リロイは私の誤魔化しを良しとはしなかった。

あからさまに不満ありげな表情をして彼は私をもう一度、今度は少し強めに叩いてきた。


「…なんだ、少し独りにしておいてくれないか」


苛立ち混じりに言ってやると、リロイはむっとしたように口をへの字にひん曲げる。

それから床に突き立てるようにしてある私の刀身を固いブーツの先で小突きながら、リロイは揶揄するように私に言った。


「なに怒ってんだよ」

「怒ってなどいない」

「―怒ってるじゃねぇか」

「……」


そうとも、確かに私は怒っていた。

昔の相棒とやらに気を取られて馬鹿みたいに凹んでいる自分自身に私は激しく憤っていた。




リロイと初めて出会ったとき、このマスターがいてくれるだけで満足だと私は思っていたはずなのに。

共にいることに慣れてしまった私は、自分が彼にとって特別な存在でありたいと、多くを望むようになってしまった。

私は、醜い。

たかが一振りの剣だというのに、私は。

知能や感情を持ってさえ、単なるモノでしかないのに。

―それを分かっているにもかかわらず私はもっと多くをリロイに期待している。

現状に満足できない、愚かな兵器。




そんな自分が許せなかった。

<<闇の種族>>を相棒としている事よりも、人間よりも欲深になっている自分に、吐き気がした。

それなのに。

リロイの過去すら欲しいと思ってしまうのだから―私は、どうしようもない愚か者だ。









「…ジェイス、だろ?」

お前が気にしてんのは。




ああ、どうしてお前はこういうときに限って聡いんだ。




だんまりを決め込む私の前で、リロイは穏やかに笑って見せた。

そのまるで駄々っ子を説き伏せる時のような物腰に釈然としないものを感じながらも、私はその笑顔に見入ってしまう。


「―俺は、アイツの事が好きだったよ」


ゆっくりと、息を吐くように告げられた科白に、私は軽いめまいがした。

リロイの言う"好き"という言葉の響きが、私の恐れていたものだったから。

だけど、それを隠そうとせずに曝け出してくれたことに、私は幾ばくかの安堵を抱いた。




依然として無言の私を咎めるでもなく、リロイは再び口を開いた。

その表情は達観したような、いっそ爽やかな顔つきで、私は少し拍子抜けする。

リロイが過去にとらわれない男だということは知っていた。

だが、そこまで吹っ切れるものか?普通。


「でもな、あの頃は俺もアイツもまだ何にもわかってないガキだったんだよ。―あの頃にはもう戻れない。アイツに逢って、良く分かったんだ。 もう俺もアイツも―大人になっちまった、ってな。サンドラだけだよ…昔のまま、無邪気なままで居られるのは」


サンドラ―確か、墓標に書かれていた名前がそうだったはずだ。


「リロイ…」


私は何を言おうとしていたのだろう?

言葉に詰まって、また何も言えなくなってしまった私をリロイは力強く握り締めた。


「俺は、昔に戻りたいなんて思わねぇよ。俺はもう孤独じゃないからな。それだけで、充分なんだ」


遠くを見つめながらそう囁いたリロイの横顔は心なしか照れくさそうで。

私は、彼の言葉に胸が苦しくなるのを感じた。


「…お前だけは、俺の傍にいてくれるだろ?」

「ああ、居てやるとも。さもないとお前はすぐ厄介ごとを起こすからな」


私の皮肉に、リロイは嬉しそうにはにかんだ。

その眩しい笑顔に見とれながら、私は心の中でそっと言う。



私も、お前が居てくれれば充分だ、と。



すこし熱っぽいリロイの掌の温度を感じながら、私は彼を思い出す。


次こそ、リロイの今の相棒である事に誇りをもって会えることを願いながら。


















私的にラグナロクはジェイス×リロイ前提リロイ×ラグなので、そんな感じの話にしてみました。
ラグの嫉妬話ですな。
ちょっと話の展開とか描写に問題大有りなんですが、気にしてはいけません(爆)
眠い目を擦りながら書いてたんで…す、すいません。
次はまともな文章、がんばって書くんで許してください。

by.涼木ソラ