I want ...






何故かは分からないが、とにかくむしゃくしゃしてたんだ。

体の中を得体の知れない衝動が駆け巡り、そのフラストレーションのはけ口を俺は無意識に探していた。





―こういうことが、たまにある。





戦いの後とか、嫌な事があった時とか。

俺はこの自分じゃうまく制御できない感情に苛々して、アイツに冷たく当たっちまうような気がしてしまう。

アイツを傷つけたくはない。

だから、俺はなにも言わずに部屋を出て行く。


どこに?


街に。―はっきり言えば、女を買いに。

そうして思い通りに女を抱けば、俺はいつもの俺に戻れるから。

金を払ってるんだ、多少感情に任せて乱暴なことをやらかしたって、相手が文句を言う事は無かった。


事が済んだら、何もなかったような顔をしてアイツのところに帰ればいい。

俺のやってる事に辟易しながらも、何にも知らないで笑ってくれるアイツ。

それを見るたびに俺は、途方もない罪悪感と、安堵感に複雑な気持ちになる。


あの衝動は、一体どこから出てくるんだろうな?

俺の中の闇の部分か、それとも俺自身が心の中に持っているのか。


だけど、何にせよ物事には限界がある。

この悲しい嘘がアイツにばれてしまうのも、どうせ時間の問題だったんだ。



俺は、この衝動を抑えられない。










戦いの後。

累々と築かれた敵―<<闇の種族>>の下級眷属だ―の死体を一瞥しながら、俺は傍らに立つ相棒の気配を感じる。


「…余計な事、するなよ」


俺は枯れた木の根元に座り込み、血の赤に染まったローブをはためかせている相棒に死体から視線を移した。


「余計な事、だと?」

「あぁ。そうだ」


言いながら、俺はあのどうしようもない感情がじわりと込み上げているのに気付いていた。

必ずしも常に現れる感情ではない。

なのに、どうしてこういうときに限って―

俺の苦悩など知る由もなく、相棒は険悪な表情を見せた。

アイツは自分に表情などないと言い張っていたが、それは嘘だ。

他人には分からない僅かな感情の機微も、俺は絶対に見逃さない。


「何が余計だったというんだ。私がやらなければお前は死んでいたかもしれないんだぞ」

「俺があんな生っちょろい攻撃で死ぬわけない」

「馬鹿な。どんなにお前が強くたって、不死身ではないんだろう」

「それでも、だ。<<存在意思>>は要らなかった」

「そうか。たしかに、お前は強いから私など居なくても構わないだろうな。 何万体という<<闇の種族>>だって赤子の手を捻るようなものなんだろう」



実際、非があるのは俺だった。

アイツの言うように攻撃を避け損ねたのは俺で、 それを救うべく<<存在意志>>で敵を一瞬にして殲滅してくれた事に俺は感謝しなければならない立場だった。

だが、俺が一体ずつ倒してきたところに<<存在意志>>で残りを全部殺られたら、すこしは頭にくるだろうが。

今までの努力はなんだったんだ―ってな。

だから、俺は相棒にこんな言葉しか返せなかった。


「うるせぇな…」

「どうした、私を置いてどこへでも行けばいい。こんな所に居ないで給料をもらって女を買いに行きたいんだろう?いつもみたいにな」

「……てめっ」


俺は、憤激に駆られて立ち上がった。

アイツの目の前まで、靴音高らかに歩み寄って―


「俺がどんな気でっ…!」


ローブの胸元を掴みあげれば、相棒は少しだけ嫌悪に顔を歪めた。


「離せ、リロイ」


薄緑色の双眸はいつになく鋭く、放たれた声は冷ややかに俺の耳朶を打った。

だが俺は、離せといわれて離すような間抜けじゃない。

相棒の命令など無視して、俺はローブを掴みあげている右手の拳でアイツの体を突き放した。


「―っ!?」


力の方向に沿って、何の抵抗もなく倒れていく相棒の体。

仰向けに、驚愕の表情を湛えたまま、彼の体は大地に横たわる。


「な…にっ、リロイ…?」

「俺がどんな気でいるかなんてお前は知りもしないくせに。分かった様な事、言わないでくれ」


俺の発言に、相棒は傷つき、困惑しているらしかった。

横たわったまま俺を見上げてくる瞳がゆらゆらと揺らめいている。

俺はその視線から顔を背けて、整理できない己の感情に途方にくれた。

もはや馬鹿としか言いようがない。



俺はどうしたらいいんだ?

お前のことが大切なのに、全然大事に出来ないんだよ。







「―分かるわけ、ないだろう」


不意に耳を突く相棒の声。


「お前が何を考えているのかなんて、分かるわけない。私はお前じゃないからな」

「……」

「…だが、お前の考えを聞くことは出来る。それがどんなにくだらない事でも、だ」


相棒は依然として横たわったまま空を見上げていた。

ほんの少し、哀切を帯びた表情で。


「なにを言われても平気だぞ?」


健気にそう言う相棒の顔は、ちっとも平気そうじゃなかった。

強張って、断頭台に横たわった囚人のように怯えて。

瞑目しながら、彼は俺の言葉を待つその姿に、俺はらしくもなく泣きそうになる。

それを精一杯こらえながら、俺はそっと相棒に近づいた。



そこまで言うなら言ってやろうじゃないか。

もう、どうにでもなってしまえ。



「良く聞けよ、これが俺の考えてる事だ」


お前が目を開くより早く。

俺はきつく引き結ばれていた唇に、軽い口付けを一つ落とす。

その瞬間、俺の中で渦巻いていた衝動の一片が、水に溶けるように消えたのは嘘じゃないだろう。

相棒はゆっくりと瞼を開いて、身を起こしながら俺の方をまじまじと見つめる。

その顔は、少し怒っているようにも見えたが―


「リロイ。そういうことがしたいなら、さっさと娼館にでも行ったらどうだ?」

「なんだよ。お前が言えって言うから素直に答えてやったのによ。もっとやらないと分かってもらえないみたいだな」

「……は?」


怪訝な顔をしている相棒のことなどお構いなしに、俺は相棒に覆いかぶさった。

そしてローブの襟ぐりから覗く、白い首筋に唇を寄せる。



そうして初めて分かった事。



それは、俺の中で大きくなっていたのは、お前に対する性的欲求で。

だけど、それを言うわけにもいかずに俺はひとりで苛々してたって事だった。



「…リロイ」


ちょっと掠れた色っぽい声に、俺はなんだか嬉しくなる。

だが、嬉々として相棒の顔を覗き込もうとしたとき、俺の腹部に鈍痛が走った。



「ぐっ、痛ってぇ…」

「馬鹿か。こんなところでそんな事をしようとするなんてな。お前には雰囲気を重んじるとか、そういうのはないのか?」



腹を抱えて地面に転がった俺を他所に、相棒は憮然として立ち上がった。

そしてローブについた土を払いながら、あたり一面に広がる殺伐とした光景に目を向ける。

俺が倒した何体もの死体を目の当たりにした相棒は、げんなりしたように溜息を吐いた。


「それだから女にすぐ振られるんだぞ」

「…振られたって別にいいんだよ。俺の本命はお前なんだから」

「そうか。それは迷惑な話だな」

「なんだよ、嬉しいくせに。顔がにやけてるぞ」

「笑っているのは、お前の馬鹿さ加減にだ」

「はいはいはい」


『はい』は一回でよろしい、なんていわれる前に俺は立ち上がって口火を切る。

今言わなければいけない事を言うために。


「―なぁ。本当はな、ありがとうって言いたかったんだぞ」

「…?」

「お前の助けがなかったらヤバかったって、ちゃんと分かってた」

「…あぁ、そのことならもういい。私も、大人げなかったしな。―それから言っておくが、今度から、娼館にいくのは禁止だ」


相棒のぞんざいな言い方にも関わらず、俺は表情が緩むのを押さえられなかった。

それって、お前にあんな事やそんな事をしてもいいって事だよなっ?

直接聞くのは怖いから、とりあえず自分のなかで都合のいいように解釈しておく。


「気色悪いぞ、お前。…勘違いするな、私は生活費の事を心配しているだけだ」

「なーに、大丈夫だいじょうぶ!さ、早いトコ街に戻ろうぜ」

「何が大丈夫なんだか…まったく」


そんな呟きは無視して、俺は真っ直ぐに歩き出した。

瞬間、相棒の体が失われて音もなく本体に戻っていく。




さて、今日は一番高い宿に止まらなくちゃな。

そんな事を思いながら、俺は一人でニヤニヤと笑った。


















い、意味が分からない…(汗)
駄作ですね。構成が破綻してます。
結局何が言いたかったんでしょうね?
多分、エロに走ってみようかなーなんて無謀な事を考えていたんじゃないかと思うんだけど
ただの喧嘩→仲直り話になってしまいました。
精進します。

by.涼木ソラ